老人ホームへの入居を検討する際、避けて通れないのが「連帯保証人」の問題です。「自分がなっても大丈夫だろうか」「頼める相手がいない場合はどうすればいいのか」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。連帯保証人は、金銭的な債務だけでなく、緊急時の対応や身元の引き受けなど、想像以上に重い責任を伴います。そのため、事前の理解不足から大きなトラブルに発展するケースも少なくありません。この記事では、老人ホームの連帯保証人を巡るトラブルの具体例や、2020年の民法改正による注意点、身寄りがない場合の解決策まで詳しく解説します。
老人ホーム 連帯保証人 トラブルの基礎知識

老人ホームに入居する際、ほとんどの施設で「連帯保証人」や「身元引受人」を求められます。まずは、なぜこれらが必要なのか、そして具体的にどのような役割を担うのかを正しく理解しておきましょう。ここを曖昧にしていると、後々「そんなはずではなかった」というトラブルを招く原因になります。
連帯保証人と身元引受人の役割の違い
一般的に「連帯保証人」は、主に入居費用の支払いが滞った際の金銭的な保証を担います。一方、「身元引受人」は、体調悪化時の意思決定や緊急時の連絡先、退去時の荷物の引き取りといった実務的な役割を担うことが多いです。
しかし、老人ホームの契約においては、この両方の役割を一つの言葉でまとめ、一人の人物に求めるケースがほとんどです。つまり、金銭的な責任と、生活全般のサポート責任の両方を負うことになります。
なぜ施設側は連帯保証人を求めるのか
老人ホーム側にとって、連帯保証人は「リスク管理」の要です。入居者が認知症などで自分で支払い判断ができなくなった場合や、月額利用料を滞納してしまった場合、施設側は運営を維持するために誰かに請求しなければなりません。
また、入居者が亡くなった後の遺体の引き取りや、居室に残された遺品の整理も、施設側が勝手に行うことは法律上難しいため、それらを引き受ける責任者を必要としているのです。厚生労働省の調査によると、約9割の施設が何らかの形で保証人を求めていると言われています。
老人ホームの連帯保証人でよくあるトラブル事例

連帯保証人になること、あるいは誰かに依頼することは、単なる形式上の手続きではありません。実際に起きているトラブルを知ることで、どのような対策が必要かが見えてきます。代表的な4つのトラブル事例を紹介します。
1. 費用滞納による多額の支払い義務
最も深刻なのは、金銭的なトラブルです。入居者本人の資産が底をつき、月額利用料が払えなくなった場合、連帯保証人にその請求が届きます。老人ホームの費用は月々15万円から30万円程度かかることが多く、滞納が数ヶ月続けば、保証人は一度に数百万円規模の支払いを求められることもあります。
「親の年金で賄えるはずだ」と思っていても、医療費の増大や介護度の進行により、予想外に出費が増えるケースは少なくありません。
2. 緊急時の呼び出しと入院手続き
身元引受人を兼ねている場合、夜中や早朝であっても施設から「体調が急変したので病院へ付き添ってください」と連絡が入ります。連帯保証人が遠方に住んでいたり、自身の仕事や家庭が忙しかったりする場合、この「駆けつけ」が大きな負担となります。
病院への入院が決まれば、入院手続きや着替えの準備、さらには手術の同意まで求められることがあります。こうした身体的・時間的な拘束がストレスとなり、家族関係が悪化するトラブルも頻発しています。
3. 退去時や死去後の残置物処理
入居者が亡くなった際、あるいは他の施設へ移る際、居室にある家具や衣類をすべて撤去しなければなりません。これを「残置物処理」と呼びます。
連帯保証人は、原則としてこれらの片付けをすべて行う義務があります。もし保証人が拒否したり、連絡が取れなかったりすると、施設側は部屋を次の人に貸し出すことができず、その期間の損害賠償を請求される可能性もあります。
4. 認知症による意思決定の困難さ
入居者が認知症を発症し、自分の意思を伝えられなくなったとき、医療的な処置や契約変更の判断を連帯保証人が迫られることがあります。例えば「延命治療をどうするか」といった重い決断です。
親族間で意見が分かれている場合、連帯保証人の立場にある人が矢面に立たされ、親族トラブルに巻き込まれることも珍しくありません。
民法改正で変わった連帯保証人のルールと注意点

2020年4月1日の民法改正により、個人が連帯保証人になる際のルールが大きく変わりました。これは、過大な保証債務から個人を保護するための重要な変更です。これから契約を結ぶ方や、更新を迎える方は必ずチェックしてください。
「極度額(上限額)」の設定が義務化
改正民法により、個人が連帯保証人になる契約では、保証人が支払う義務のある上限額(極度額)を契約書に明記しなければならなくなりました。例えば「保証の上限は300万円とする」といった具体的な金額の記載が必要です。
これまでは「本人が負う一切の債務を保証する」といった無制限の契約が可能でしたが、現在はこれが禁止されています。もし極度額が設定されていない場合、その保証契約は「無効」となります。
極度額が設定されていない契約のリスク
もし古い契約のままで、かつ自動更新されているような場合、法的にどのような扱いになるかは専門的な判断が必要です。しかし、新規に契約を結ぶ際に「極度額の記載がない」のであれば、その施設側の法務知識を疑うべきでしょう。
保証人側にとっては、自分が最大でいくら払う可能性があるのかをあらかじめ知ることができるため、リスクを予測しやすくなったというメリットがあります。逆に言えば、極度額として提示された金額を支払う覚悟があるかどうかを判断基準にすることができます。
連帯保証人がいない・頼めない場合の解決策

「子どもがいない」「親族とは疎遠」「親族が高齢で保証人になれない」といった理由で、連帯保証人を立てられないケースが増えています。しかし、保証人がいないからといって入居を諦める必要はありません。現代にはいくつかの代替手段が存在します。
身元保証会社(保証代行サービス)の活用
近年、最も一般的なのが民間企業が提供する「身元保証サービス」です。初期費用(20万円〜50万円程度)と月額利用料を支払うことで、企業が連帯保証人や身元引受人の役割を代行してくれます。
金銭的な保証だけでなく、入院時の手続きや亡くなった後の葬儀、遺品整理までワンストップで支援してくれるプランもあり、身寄りがない方にとっては心強い味方です。ただし、サービス内容や会社の経営安定性をしっかり見極めることが重要です。
成年後見制度の利用
認知症などで判断能力が不十分な場合、家庭裁判所から選ばれた「成年後見人」が入居者の財産管理や契約手続きを行います。後見人は金銭管理のプロであるため、施設側にとっても「支払いが滞るリスクが低い」と判断され、連帯保証人がいなくても入居を認められるケースがあります。
ただし、後見人は「身元引受人」として遺体の引き取りや医療同意を行う権限は原則として持っていないため、別途対策が必要になる場合もあります。
社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」
判断能力が少し不安な方に向けて、各市区町村の社会福祉協議会が提供しているサービスです。福祉サービスの利用手続きや公共料金の支払いなどを支援してくれます。これ単体で連帯保証人の代わりになるわけではありませんが、後見制度と組み合わせたり、地域ケアの一環として活用したりすることで、施設側の安心材料になることがあります。
トラブルを防ぐために契約前に確認すべきポイント

連帯保証人を巡るトラブルを未然に防ぐには、契約前の準備とコミュニケーションが不可欠です。施設選びの段階から、以下のポイントを意識してください。
1. 契約書の範囲と責任を詳細に確認する
契約書に記載されている「保証範囲」を細かくチェックしましょう。月額利用料の保証だけなのか、それとも修繕費や損害賠償、さらには医療費まで含まれるのかを明確にします。
特に「身元引受人」としての義務にどこまで含まれるかが重要です。「緊急時の駆けつけが必須なのか」「電話連絡だけで済むのか」といった運用の詳細を施設側に質問し、納得した上で署名しましょう。
2. 家族間・親族間で役割分担を話し合っておく
一人の人にすべての責任を押し付けないことが、将来のトラブル回避につながります。長男が連帯保証人になるなら、次男は緊急時の駆けつけを担当する、といった具合に、役割を分散させることをお勧めします。
また、本人の資産状況(預貯金、不動産、年金額)を共有しておくことも大切です。「お金が足りなくなったら誰が補填するのか」というデリケートな問題こそ、元気なうちに話し合っておくべきです。
3. 施設側のサポート体制を確認する
施設によっては、連帯保証人がいなくても「保証会社」の利用を条件に入居を認めているところも増えています。また、入院時の付き添いや買い物代行を、オプションサービス(有料)として提供している施設もあります。
こうしたサービスが充実している施設を選べば、連帯保証人の負担を大幅に軽減できます。「家族に迷惑をかけたくない」と考えている方は、自立した生活をサポートする体制が整っている施設を優先的に探すとよいでしょう。
老人ホームの連帯保証人トラブルに関するまとめ

老人ホームの連帯保証人を巡るトラブルは、金銭的な問題から精神的な負担まで多岐にわたります。しかし、その多くは事前の知識不足やコミュニケーション不足に起因するものです。
連帯保証人は、決して名前を貸すだけの簡単な役割ではありません。民法改正によって「極度額」の設定が義務付けられた今、保証人になる側も、その責任の重さを数字で実感することになります。もし親族に頼ることが難しい場合でも、身元保証サービスの活用や成年後見制度の検討など、代わりの手段は確実に存在します。
大切なのは、入居者本人、家族、そして施設側の三者が納得できる形で契約を結ぶことです。トラブルを恐れて入居を先延ばしにするのではなく、まずは「どの範囲まで責任を負えるか」「不足している部分はどのサービスで補うか」を具体的に検討し、専門家や施設の相談員にアドバイスを求めてみてください。
安心できる老後を送るための第一歩は、現在の不安を一つずつ解消していくことから始まります。この記事が、あなたとご家族のより良い選択の一助となれば幸いです。


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