認知症による資産凍結から守る「家族信託」について詳しく解説
認知症による資産凍結、ご存知ですか?
認知症になると意思能力を喪失し、
- 預金口座からお金を引き出せなくなる
- 不動産の売却や処分ができなくなる
- 生前贈与などの相続対策ができなくなる
など、いわゆる「資産凍結」に陥るリスクがあります。
数年前であれば、認知症になった親の代わりに子どもが銀行に行き、お金を下ろすことも比較的簡単にできていました。
しかし近年では、詐欺の防止やコンプライアンスの高まりから、たとえ家族であったとしても資産を動かすことができないケースが増加しています。
資産凍結を回避するには?
認知症発症前、意思能力がある場合は、「家族信託」という制度を活用して
事前に資産凍結を防ぐことが可能です。
資産凍結をあらかじめ防ぐ「家族信託」
家族信託とは、認知症や判断能力の低下による「資産凍結」を防ぐ制度です。
家族信託を活用し、元気なうちに、信頼できる家族に自身の財産の管理権限を託すことで、資産凍結のリスクを未然に防ぐ事ができます。
家族信託の仕組み
親が自分の財産(金銭、不動産、株式など)の管理・運用・処分の権限を、信頼できる家族(子など)の受託者に事前に託します。子が親に代わって財産を管理するため、親が認知症になった場合でも資産が凍結されるリスクはありません。
受益権(財産から得られる利益を受ける権利)と財産の管理・運用権限を分けられるのが家族信託の大きな特徴です。
家族信託の仕組みについてはこちらの記事をご参照ください:家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを徹底解説します
家族信託のメリット
家族信託を締結すると様々なメリットがあります。
本記事では大きく3つのメリットを紹介します。
- 認知症による資産凍結に備えることができる
- 成年後見制度より柔軟な財産管理が可能
- 共有不動産の凍結リスクを回避
認知症による資産凍結に備えることができる
認知症で判断能力が低下すると、預金口座から自由に引き出しができなくなったり、所有不動産の売買ができなくなったりするなど、資産が事実上凍結されてしまいます。これは本人を詐欺等から守るための措置でもありますが、一度、資産が凍結されると、たとえ家族であっても代わりに財産を動かすことはできません。
そこで、本人が認知症になる前のお元気なうちに、家族信託を活用することで、本人の判断能力に関わらず、財産を託されたお子様(受託者)が財産の管理や処分を行うことができます。
成年後見制度より柔軟な財産管理が可能
成年後見制度は認知症、知的障害、精神障害等が原因で判断能力が低下した人を支援する制度です。この制度は、家庭裁判所によって選ばれた後見人が財産管理や法律手続き等を行います。
原則として、本人の財産維持が目的のため、本人が生活するために必要な支出しか認められず、積極的な資産運用は制限されます。
また、本人名義の居住用の不動産を売却する際には、原則家庭裁判所の許可が必要となる(民法859条の3)など、手続きが煩雑となり、ご家族の負担が大きくなるおそれがあります。
しかし家族信託であれば、信託契約の範囲内で受託者が財産を管理する権限を任せられているため、家庭裁判所の関与はなく、柔軟な資産運用や不動産売買などができます。
共有不動産の凍結リスクを回避
不動産を兄弟など、複数人で共有している場合、共有者1人が認知症などで意思能力を喪失すると、不動産の売買や建て替えに必要である全員の同意が取れなくなり、これらの行為ができなくなります。
そこで、家族信託を活用し、不動産の管理権限を兄弟もしくは兄弟以外の誰か1人に集約しておくことで、不動産の共有状態が解除され、今後共有者の誰かが意思能力を喪失しても、不動産の管理や売却を行うことができます。
家族信託の注意点
認知症になった後も受託者によって、柔軟な財産管理や相続対策等を行える家族信託は、メリットもありますが、デメリットも存在します。これらのデメリットをしっかりと理解しておくことで、リスクを最小限に抑え、家族信託を有効に活用できるでしょう。
- 直接の節税効果はない
- 受託者の負担が大きい
- 委託者に意思能力が必要
直接の節税効果はない
家族信託自体には直接的な節税効果はありませんが、専門家から適切なアドバイスを受けて組成すれば、結果的に相続税や贈与税の節税につながる場合があります。
「家族信託=節税対策」と勘違いしないよう注意が必要です。
受託者の負担が大きい
受託者(子)には、善管注意義務(信託法29条)や分別管理義務(信託法34条)などの法的義務があります。特に信託財産に関する帳簿等の作成・報告・保存義務(信託法36条、37条)に関しては事務的な負担も大きくなります。
一般的に、認知症の発症から相続までの期間は5〜10年とされています。
このような長期にわたる運用を必要とする家族信託では、受託者(子)が、長期間、これらの責任を全うする義務があることを理解しておかなくてはなりません。
委託者に意思能力が必要
家族信託は委託者の意思に基づく法律行為のため、委託者に一定の意思能力が求められます。公正証書作成時に公証人や専門家が意思能力の有無を確認しますが、認知症が進行した場合、組成できなくなる可能性があります。
家族信託の活用事例
家族信託の具体的な活用事例をご紹介します。
介護施設入居のために資金を捻出したい
将来介護施設への入居を検討している場合、自宅を売却して介護施設入居費用を捻出したり、空き家を防いだりすることをお考えの方も多いのではないでしょうか。
しかし、自宅の売却は法律行為であり、名義人の意思能力が必要です。
民法(3条の2)において「意思能力がない者が行った法律行為は無効である」と定められており、認知症などにより意思能力が低下すると、自宅があるにもかかわらず売却できず、介護施設入居費用も捻出できないという事態に直面することがあります。
そこで、親と子の間で、不動産を信託財産とした家族信託を行い、
事前に受託者(子)に自宅の管理や売却の権限を与えておくことで、委託者(親)が認知症になっても自宅を売却する事ができ、介護費用を準備する事ができます。
家族信託は司法書士などの専門家へご相談を
家族信託の組成は、実務上難易度が高く、信託法や民法、相続、税金といった幅広い知識が必要です。そのため、一般の方が自分で行う場合は、かなりの時間と手間がかかることが予想されます。そこで、専門家に相談しながら進めることで、安心して家族信託を設計することができます。
家族信託を扱える専門家には、司法書士・弁護士・行政書士、または家族信託のコンサルティングを提供する民間企業などがありますが、結論、最適な相談先は「司法書士」 だといえます。
司法書士は主に登記業務に特化しており、家族信託の組成から開始まで一貫して対応することができます。これにより、家族信託組成のスムーズな進行と費用削減が期待できます。特に不動産が含まれる場合は、不動産の信託登記が必要(信託法34の1の1・分別管理義務)とされるため、司法書士への相談をおすすめします。実際に、司法書士への相談が最も多く、金融機関に持ち込まれた信託口座の開設依頼でも司法書士の関与が7〜8割を占めています。
(参照: 第21回弁護士業務改革シンポジウム【第10分科会】民事信託の実務的課題と弁護士業務(p.271))
また、専門家に家族信託についてご相談される際には、契約手続き後もアフターフォローを受ける事ができるかどうかも、併せて確認するようにしましょう。
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