毎月のガス代に設備の修繕などが上乗せされるのがプロパンガススキームです。
今回はプロパンガススキームの全体像や、今後の法改正について解説していきます。
プロパンガス業界だけではなく、現在賃貸で生活している人や不動産業界にとっても知っておかなければならないことをわかりやすく解説します。
本記事を読むだけでプロパンガススキームについて知ることができる内容になっていますので、少しボリュームはありますがぜひ最後までお付き合いください。
私は現在都内で不動産会社を経営しており、不動産オーナーの経験もあります。もちろん宅建士資格も保有しているため、プロの視点で解説していきます。
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プロパンガススキームとは?
まずはじめに、プロパンガススキームの今後の法改正について解説する前に、プロパンガススキームの全体像を整理します。
プロパンガススキームとは、プロパンガス業者が自社と契約を交わした賃貸物件オーナーに対して行われるガス関連機器および設備の無償貸与契約をし、設備交換や修理にかかった料金をガス料金に上乗せして入居者に負担させるスキームのことです。
上記のとおり、給湯器以外にもさまざまな設備・機器がガス会社から提供されています。
もちろん、設備上乗せの分まで支払うことは、入居者本人に対して説明されることはありません。不動産オーナーは設備の不具合がなくても一切自己負担しなくてもよく、その分家賃を安く募集することもできます。
ガス会社によっては契約する条件で温水洗浄暖房便座や給湯器、エアコンを無償で貸与するところもあります。部屋の設備が充実すれば、その分家賃を上げなくても入居者がつきやすくなります。
プロパンガススキームの課題とトラブル事例
ここからはプロパンガススキームの課題とトラブル事例について詳しく解説します。
自由料金制
プロパンガスの最大の特徴は、「自由料金制」と呼ばれる料金設定の仕組みです。これは、各ガス会社が独自に料金を設定できる制度のことで、以下のような特徴があります。
- 地域や会社ごとに料金が異なる
同じ地域内でも、利用しているガス会社が違えば料金が異なることがあります。たとえば、A社では「基本料金1,500円+従量料金500円/m³」、B社では「基本料金2,000円+従量料金400円/m³」といった具合です。 - 料金が変更される場合も自由
ガス会社は、市場の変動や会社の都合で自由に料金を変更することができます。ただし、この変更が消費者に十分に通知されないことが問題となる場合があります。
不透明な料金の仕組み
プロパンガスの料金は基本的にガス会社ごとに異なります。契約時に「この地域で一番安い」と言われて契約しても、実際には他のガス会社のほうが安かった、というケースがよくあります。また、契約後に料金が値上げされることも珍しくありません。
ある消費者の例では、契約時に「月額8,000円程度で使えます」と説明されたものの、半年後には毎月1万円以上の請求が来ていたそうです。ガス会社に理由を問い合わせても「仕入れ価格が上がった」とだけ説明され、具体的な内容は教えてもらえなかったとのことです。
ガス料金の上乗せ
プロパンガススキームはガス業者がガス機器や住宅設備を無償貸与するという形で、不動産オーナーは費用をかけずに建設・修繕できます。
上記の画像のとおり、6割以上のガス会社が負担したことがあると回答しています。
そして、設備の修繕や交換にかかった費用は毎月のガス代に上乗せして入居者に請求されます。
賃貸管理の仕事をはじめたばかりのとき、毎回エアコンや給湯器の修理費が無料なのが不思議でした。「太っ腹なガス会社だな」と思っていたのですが、蓋を開けてみるとこれらの修理費は全部ガス代に上乗せされてたというわけです。
入居者からすると、設備上乗せでプロパンガス料金が高くなっていることは引っ越し後にしかわかりません。筆者もプロパンガスの物件を紹介したことが何度もありますが、引っ越し前にガス料金の内訳や計算方法についてお客様から聞かれたことは一度もありません。
しかし、入居後に「こんなにプロパンガスが高いとは思わなかった」と連絡があることは何回もありました。
実際、ネットでもプロパンガスの料金が高いという口コミがいくつもあります。
こちらの賃貸プロパンガスは高いですよね。
マンションコミュニティより引用
なぜか三河地区は都市ガス物件が少ないのが実情です。
今までいくつも賃貸物件に入ってきましたが、一番高かったところはフリーレント2ヶ月とか初期費用が安くて釣られて入って失敗。
前と同じプロパンで同じように生活して、ガス代が5000円も高かったのです。1年で退去しました。
マンションコミュニティより引用
契約解除時のトラブル
プロパンガス契約には違約金が発生する場合があります。違約金とは、契約期間中に解約する際に支払うお金のことです。この金額が高額である場合、契約解除が非常に難しくなることがあります。
例えば、ある家庭では、ガス会社を変更しようとしたところ、「違約金として10万円を支払う必要があります」と言われ、変更を諦めたそうです。このようなケースでは、契約書に小さく記載されている違約金の条件に気づかないことが多いため、消費者が不利益を被ることがあります。
今後の法改正とその影響
プロパンガス業界は、料金や契約条件が不透明であることが長年の課題とされてきました。そのため、消費者保護を強化するための法改正が進められています。
経済産業省、国土交通省、消費者庁などさまざまな機関が通達文を出しています。
これらの改正は、消費者の利益を守ると同時に、業界全体の透明性を向上させることを目的としています。ここでは、具体的な法改正の内容と、それがどのような影響を与えるのかを詳しく見ていきます。
法改正の背景と目的
まず、なぜプロパンガス業界で法改正が必要なのかを考えましょう。主な背景は以下の3つです。
- 料金の不透明さ
プロパンガス料金は自由に設定できるため、同じ地域でも価格が異なるケースが多く見られます。値上げの際に事前通知がない場合も多く、消費者が「知らない間に高い料金を支払っていた」と気づくことがあります。 - 契約解除のトラブル
解約時の違約金が高額である場合や、契約書にその条件が明記されていないケースが報告されています。これが消費者との間でトラブルを引き起こしている原因の一つです。 - 消費者が情報を得にくい環境
プロパンガス業界では、ガス会社ごとの料金や契約条件を比較することが難しいため、消費者が適正な判断を下しにくい現状があります。
法改正の時期
2024年から段階的に施行されます。経済産業省:LPガスの商慣行是正に向けた対応方針中間とりまとめ 概要資料によると以下のスケジュールで制度の見直しが勧められます。
実施予定 | 項目 | 具体的な内容 |
---|---|---|
2024年夏頃 | 過大な営業行為の制限 | ⚫正常な商慣習を超えた利益供与の禁止。 ⚫消費者の事業者選択を阻害するおそれのある、LPガス事業者の切替えを制限するような条件付き。 ⚫契約締結等の禁止 |
2024年夏頃 | LPガス料金等の情報提供 | 入居希望者へのLPガス料金の事前提示の努力義務( |
2025年春頃 | 三部料金制の徹底 | ⚫基本料金、従量料金、設備料金からなる三部料金制(設備費用の外出し表示)の徹底 ⚫ 電気エアコンやWi-Fi等、LPガス消費と関係のない設備費用のLPガス料金への計上禁止 ⚫ 賃貸集合住宅向けLPガス料金においては、ガス器具等の消費設備費用についても計上禁止 |
具体的な法改正の内容
1. 料金の透明化義務化
プロパンガス料金が「なぜこの金額なのか」を明確に説明することが義務化されます。具体的には、以下のような内容が求められるようになります。
- 料金内訳の提示:基本料金と従量料金を契約時に明確に示すこと。
- 値上げの事前通知:料金が変更される場合、その理由と新しい料金を事前に通知すること。
- 料金比較の推奨:他社との比較が可能な情報提供。
この改正により、消費者は契約前に料金の妥当性を判断しやすくなり、契約後の値上げによる不利益を防ぐことができます。
2. 違約金の上限設定
違約金が高額すぎるという問題を解決するために、違約金の金額に上限を設けるルールが導入される予定です。また、契約解除時の条件や手続きについても、契約書に明確に記載することが義務付けられます。
これにより、「契約時に違約金について説明を受けていなかった」「高額な違約金を請求された」といったトラブルが減少することが期待されています。
3. 標準契約書の導入
ガス会社ごとに契約書の内容が異なることで、消費者が混乱するケースが多いことが指摘されています。このため、消費者が契約内容を簡単に理解できるよう、標準的な契約書のフォーマットが導入される見込みです。
標準契約書には以下の内容が含まれることが想定されています。
- 基本料金と従量料金の明記。
- 契約期間と違約金の条件。
- 契約解除の手続き方法。
4. トラブル相談窓口の設置
法改正後は、消費者がトラブルに直面した際に相談できる窓口が設置される予定です。この窓口では、契約内容の確認や料金の適正性についてのアドバイスを受けられます。
法改正が消費者に与えるメリット
1. 安心して契約できる環境の整備
法改正により、契約時の条件が明確化されるため、消費者が安心して契約できるようになります。これまで曖昧だった料金や契約内容が見える化されることで、不安を感じることが少なくなります。
2. トラブルの減少
料金や違約金が明確になることで、契約解除時のトラブルが大幅に減少することが期待されます。また、標準契約書の導入により、契約内容の理解度が向上するため、誤解やトラブルの原因が減ります。
3. 料金競争の活性化
料金の透明化が進むことで、ガス会社同士の競争が活発になり、結果的に料金が適正化される可能性があります。これにより、消費者はよりリーズナブルな料金でプロパンガスを利用できるようになるでしょう。
法改正が不動産オーナーに与える影響
法改正をするまではガス会社に「おんぶに抱っこ」のような状態だった不動産オーナーにとってはさまざまな影響が出てきます。
1. 設備費を負担しなければならない
プロパンスキームを使えたときは、ガス会社からTVインターホンやエアコンなどさまざまな設備が提供されていました。しかし、これからはこれらの提供はされにくくなります。もし、いままでと同じような部屋の設備にする場合は、ガス代に上乗せされていた分を不動産オーナーが払わなくてはいけないケースも増えてくるでしょう。
2.賃貸募集の条件見直しが必要
ガス会社による設備の提供や修理費をガス代に上乗せしにくくなれば不動産オーナーの負担も増えます。いまままでは家賃を低くしても影響はなかったとしても、今後は不動産オーナーが負担する分は家賃を上げるなど見直していく必要があります。
また、家賃だけではなく、初期費用の見直しの必要も出てきます。いままでは初期費用を安くして入居付けをし、毎月のガス料金で安くした初期費用の分を回収するという方法も通用していましたが、今後はそれすらも厳しくなります。初期費用を安くすることができなければ、当然入居募集も厳しくなります。
法改正に伴う潜在的な課題
1. ガス会社側のコスト増加
法改正により、ガス会社は料金の透明化や契約条件の明確化のための対応を求められるため、運営コストが増加する可能性があります。このコストが最終的に消費者に転嫁され、料金が上昇するリスクも考えられます。
2. 小規模事業者への影響
特に地方の小規模なガス会社にとって、法改正への対応が難しい場合があります。この結果、一部の事業者が市場から撤退する可能性もあります。競争が減ることで、地域によっては料金が高止まりするリスクもあります。
3. 新たなトラブルの発生
法改正による新しいルールが、すべてのガス会社で適切に運用されるとは限りません。一部の事業者がルールを無視することで、新たなトラブルが発生する可能性もあります。このため、消費者自身が契約内容をよく確認し、疑問があればすぐに相談することが重要です。
法改正に従わない、違反行為が発覚したLPガス業者には登録取り消しや罰金などが科されます。また、2023年12月から経済産業省によって「LPガス商慣行通報フォーム」も開設されました。
消費者を守る環境が整備されてきているのがわかります。
プロパンガスを安心して使うためのポイント
契約前に確認すべきこと
プロパンガスの契約をする前には、以下の点をしっかり確認しましょう。
- 料金の内訳
基本料金と従量料金の具体的な金額を確認し、他社と比較することが重要です。 - 違約金の条件
契約期間や解約時の違約金について、必ず確認しましょう。「違約金は発生しない」との説明があれば、その内容を契約書にも明記してもらいましょう。 - 契約書をしっかり読む
契約書には、重要な条件が小さい字で記載されていることがあります。わからない部分は、必ず担当者に質問して解決してください。
トラブルを未然に防ぐには?
- 契約後も料金を定期的に確認する
契約時だけでなく、毎月の料金明細を確認し、値上げがあった場合はすぐにガス会社に問い合わせましょう。 - 困ったときは専門機関に相談する
消費者センターや自治体の相談窓口を活用して、問題を早期に解決することが大切です。
まとめ
プロパンガススキームは不動産オーナーやガス会社にとっては便利な仕組みですが、料金や契約内容の不透明さが問題となっています。しかし、これからの法改正によって、私たち消費者にとってより使いやすい環境が整うことが期待されています。
また、もし既にプロパンガスの料金が高い場合は切り替えるのも検討しましょう。
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